溶解パラメーター

溶解パラメーター(ようかいパラメーター、Solubility Parameter、δ、SP値)は、ヒルデブラント(Hildebrand)によって導入された正則溶液論により定義された値であり、2成分系溶液の溶解度の目安となる[1]溶解度パラメーター(ようかいどパラメーター)、溶解性パラメーター(ようかいせいパラメーター)、ヒルデブラントパラメータとも呼ばれる。

正則溶液論では溶媒-溶質間に作用する力は分子間力のみと仮定されるので溶解パラメーターは分子間力を表す尺度として使用される。実際の溶液は正則溶液とは限らないのが、2つの成分のSP値の差が小さいほど溶解度が大となることが経験的に知られている。

定義

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正則溶液理論では溶媒-溶質間に作用する力は分子間力のみとモデル化されているので、液体分子を凝集させる相互作用が分子間力のみであると考えることが出来る。液体の凝集エネルギー は蒸発エンタルピー の関係にあることから、モル蒸発熱 とモル体積 より、溶解パラメーターを で定義する。すなわち、1cm3の液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根(cal/cm3)1/2から計算される。

実際の溶液が正則溶液であることは稀であり、溶媒-溶質分子間には水素結合など分子間力以外の力も作用し、2つの成分が混合するか相分離するかはそれらの成分の混合エンタルピーと混合エントロピーの差で熱力学的に決定される。しかし経験的に溶解パラメーターが近い物質は混ざりやすい傾向を持つ。そのためSP値は溶質と溶媒の混ざりやすさを判断する目安ともなる。

溶媒である液体1に溶質である液体2が混合して正則溶液となる場合の液体2の部分モルギブス自由エネルギーにより、液体2の溶解度 は以下の式で与えられる。ここで および はそれぞれの溶解パラメーター、 は液体1の容積分率、 は溶液中の液体2のフガシティー は純粋な状態の液体2のフガシティーを表す。

本来の定義では当然ながら「沸点が既知の液体」に限られるが、ポリマー等にも適用しようという考え方もある。これは、SP値が既知の溶媒へのポリマーの溶解度から矛盾が出ないようにと考え出された実験値である場合が多い。また、分子構造から推定しようという試みもなされている。しかしながら、もともと元来の「SP値による溶解度の推定」自体に適用限界があるため、これらの経験値は参考程度にしかならない場合も多い。

主な溶質・溶媒のSP値

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溶媒SP値(理論値)
n-ヘキサン7.3
酢酸ブチル8.5
キシレン8.8
トルエン8.8
酢酸エチル9.0
ベンゼン9.2
ジブチルフタレート9.4
アセトン10.0
イソプロパノール11.5
アセトニトリル11.9
ジメチルホルムアミド12.0
酢酸12.6
エタノール12.7
クレゾール13.3
ギ酸13.5
エチレングリコール14.2
フェノール14.5
メタノール14.5–14.8
23.4
溶質SP値(理論値)
ポリテトラフルオロエチレン6.2
ブチルゴム7.3
ポリエチレン7.9
天然ゴム7.9–8.3
スチレン・ブタジエンゴム8.1–8.5
ポリスチレン8.6–9.7
クロロプレンゴム9.2
ポリメチルメタクリレート9.2
酢酸ビニル9.4
クロロエチレン9.5–9.7
エポキシ樹脂9.7–10.9
ニトロセルロース10.1
テトロン10.7
メタクリレート樹脂10.7
セルロースジアセテート11.4
フェノール樹脂11.5
AS樹脂12.8

脚注

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